こころの声をきく
こころの声をきく
独居、ADLはベッド上、身寄りなし。
そんな患者さんと何人出会ってきたんだろう。
私が出会ったAさんも、この様な社会背景の患者さんだった。
心不全は重症化しており、沢山の薬剤と安静指示・毎日ベッドから天井を見ている生活で、日に日に活気がなくなっている。吸引や看護ケアにも拒否がみられる様になってきた。
いつもの様にバイタル測定をしようとした時「ここに居たら死んじゃう。家に帰りたいな」とポツリと呟いていた。私はAさんの社会背景と現在の病態で自宅に帰るのは不可能ではないか、ケアを拒否しているのに私たちに出来る事はないのではないかと思った。しかしこれまで先輩達がやっていた看護や同じ様な境遇の方のお見取りを通して、後悔した出来事を思い出しちゃんとAさんの気持ちと向き合いたいと思った。まずは吸引のケアを減らして治療に前向きになれる様、医師へ内服の調整と吸入薬の相談・リハビリのセラピストと呼吸法やドレナージの確認などを行った。Aさんは徐々に自分で痰が出せる様になり、少量ずつではあるが食事摂取や車椅子乗車が出来るようになった。自宅に帰る目標が見えてきて、チームや多職種を含めてAさんのQOLを上げるためには何ができるか何度も話し合い、新人看護師からも誕生日がしたい、車椅子に乗車させてあげたいと意見がでてきた。
このまま一時退院が目指せるじゃ無いかと思っていた時、肺炎が再発した。
再び吸引や薬剤投与が必要になってしまい、家に帰れないまま息を引き取ることになってしまった。お見送りした後に、自分の看護を振り返ってみた。
もう少し早く退院調整が出来ていれば一時的にでも家に帰れたんじゃないか、入院して最後まで苦痛ばかりになっていたのではないか、やはり自分がしてきた看護には課題が残った。
しかし、Aさんの看護を通して「患者さんの思いや希望をくみ取り少しずつ目標をクリアしていく事」「思いに寄り添う事」当たり前だと思っていたが、実際にケアにつなげる事は難しいがとても大切なことなんだと改めて気づかせてくれた。
患者さんの思いに寄り添う看護師になれるように患者さんの声を聴き、ケアに繋げていきたいと思う。