「なりたい姿」を叶えるために
「なりたい姿」を叶えるために
私が勤務する病棟に、50代・呼吸器管理・寝たきりの女性Aさんがいた。
Aさんは話し好きで、気管切開で声は出なかったけれど、口パクでスタッフとたくさんお話をしていた。しかし、夫の急逝や自身のコロナウイルス感染による隔離で、精神的にかなり不安定な時期があった。私は夜勤のときなど、眠れないAさんと他愛もない話をしたり、話を聞いて励ましたりしていた。
そして、Aさんの呼吸器離脱、リハビリが進んできて妹の自宅への退院を進めていくことになった。Aさんは「歩けるようになりたい」「川崎大師に行きたい」「ラーメンをすすりたい」など、なりたい姿について時折口にしていた。その反面、退院や思うように動かない身体に対して不安を抱えていた。私は、変わらず話を聞き少しでも不安を解消できるよう励ましていた。そして、具体的な方法について提案はするものの、曖昧な返答をされ積極的に離床を促せないままでいた。そんなある日、先輩看護師がAさんを受け持った。半ば強引にオムツからリハビリパンツに変え、トイレに行くよう促したことがきっかけとなりAさんのADLは徐々に向上し、妹の自宅へ退院することができた。
私は、精神的な支えとなることを中心にAさんと関わり、実際に入院中も退院時も何度もAさんに感謝された。しかし、実際Aさんが退院できたのは先輩看護師の働きかけがあったからこそ。ただ強引に離床を進めてもAさんの気持ちは置いていかれてしまっていたし、ただ話を聞いて励ますだけではAさんは動けるようにならなかった。どちらの支援も重要だったのだと実感した。Aさんが入院中に思い描いた「なりたい姿」を、退院をきっかけにこれから1つずつ叶えていってほしい。
私は、Aさんの支援を通して患者さんの「なりたい姿」へのアプローチについて考えるきっかけとなった。今後患者さんの精神的なサポートをしながらも、「なりたい姿」を叶えるためのもっと踏み込んだ支援もしていきたい。