ご家族の愛に触れて感じたこと

ご家族の愛に触れて感じたこと
「ありがとうございます。すみません、ご迷惑おかけして。」それがその方の口癖だった。その方は50代卵巣がん末期のお看取りで10月ごろ入院された。私の所属する病棟に降りてきたときには医療用麻薬をすでに使用しており、腹膜への転移により腹水も溜まっている状態で呼吸のしづらさやお腹が苦しいとよく言われていた。余命は1か月とのことであった。
旦那様は介護休暇をとり毎日23時ごろまで病院におり、ベッドを整えたり本人の側で背中をさすっていたりしていた。「本人のためにできることはしてあげたい。」と言われるとても奥様思いの方だった。旦那様の希望としては「最後に家族で旅行に行きたい、自宅でも過ごせたらいいと思っている」だったが、本人の希望は「安心して過ごせる病院に最後まで居たい」とのことであった。自宅には帰らないため、せめて病院でできる支援をしてあげたいとチーム皆で考え、「お風呂に毎日入りたい」と本人が一番希望していることに答えていくことにした。平日は看護師付き添いでお風呂に入り、休日は足浴と清拭を実施した。いつも看護師に素敵な笑顔を見せてくれるが、お風呂に入ったときに見せてくれる笑顔はとてもきらきらしていた。
余命宣告を超えた2か月過ぎた頃、ほとんどベッドから動けなくなってしまい食事もほとんど口にしなくなった。それでも本人は「お風呂に入りたい」と言われたため、機械浴に変更し対応した。また排泄も最後まで自分で行いたいとのことであったためポータブルのトイレ設置し、看護師が抱える状態で移しながら行っていた。「ありがとうございます。」外見もさらに痩せてしまったが、素敵な笑顔だけは変わらなかった。
12月眠るようにして息を引き取った。エンゼルケアを終えて、本人を見た旦那様は「妻が久しぶりに化粧をしているのを見ました。とても綺麗でさらに惚れ直しちゃいました」といった。素敵な夫婦愛を見て、とても心が温かくなった。