「ポータブルトイレに残されたその人らしさ」
「ポータブルトイレに残されたその人らしさ」
私が看護師2年目の春、慢性期病棟で勤務していた頃の体験である。当時の病棟ではお看取りすることが多く、膵臓がん末期ステージ4で骨転移もある男性患者がいた。この出来事の1日前にICを行なっており、在宅に帰る準備を進めることとなり数日後には在宅に退院する話も出ていた中でA氏はコミュニケーションも良好で、食事も数口ではあったが自己摂取されていた。
ポータブルトイレも自身で利用されていたが体力が徐々に低下してきて次第に困難となった。
それでも本人はおむつの拒否ありPトイレへいつの間にか移動していたので出来る限りの介助をするが「出来ることは自分でしたい」という思いが強く感じられた。
ある日、夜勤明けで食事の下善に伺うとA氏はPトイレに座ったまま息を引き取っていた。最後の瞬間まで自分で出来ることはやり遂げようとした姿に私は感動した。
その後、救命処置を行い院内応援要請しCPRを行なったが回復には至らなかった。知識や技術があまり身についていなかった当時の私は、初めて目の前で人の呼吸停止を経験し、頭が真っ白になり何もできなかった自分がいた。
奥様より「こだわりが強いから。家に帰る話も昨日したのに残念。大変お世話になりました。」という言葉をいただいた。
本人は最後の最後まで身の回りのことや自分が決めたことはやり切り、最期の瞬間まで痛みはないと言っていたが苦悶表情はありきっと我慢をしていただろう。
家族が最期に立ち会えないケースが多い中で、患者がその人らしく最期を迎えるために看護師として何が出来るか深く考えさせられた。
この経験から、癌末期は特に突然何が起きるかわからない。末期がんに限らずどの患者にも1日1日大切に関わっていくこと、その人が何を大切にして生きてきたのかをこのA氏から学ばさせていただいた。
この経験も含め、私はいま患者・家族を巻き込みその人が最期まで自分らしく過ごせるような看護観を大切にし緩和認定看護師を目指している。
