言葉にされなかった思いに気づいた日
言葉にされなかった思いに気づいた日
検温や処置後に「またきますね」と言った後、患者さんのもとへ何回行けているだろう。看護師が患者さんのもとへ行ける時間は限られている。もちろん、ナースコールの多い患者さんやセンサーベッドを設置している患者さん、呼吸器管理をしているなど状態が不安定な患者さんのもとには、何度も訪室することになる。しかし、病状が落ち着いている患者さんやADL自立の患者さんのもとへ行くことは最低限になってしまう。
業務にある程度慣れてきた看護師3年目の春、誤嚥性肺炎で入院してきた100歳のA氏が忘れられない。抗生剤治療によって肺炎は改善したが、廃用症候群が進行し、自宅退院が厳しい状態になってしまった。医師からご家族への病状説明を行い、BSC方針が決まった。500mlの点滴を1本投与するという指示がでており、その他の処置はなかった。A氏は難聴があったため、普段から耳元に近づき大きな声で話しかけていた。しかし、限られた時間の関わりではクローズドクエスチョンでのコミュニケーションが多くなってしまっていた。A氏のもとへ行くことは最低限に減っていった。
ある日、まっさらなホワイトボードが床頭台に置かれていることに気がついた。「今日の調子はどうですか」と書いてA氏に見せると、手を前に出してペンがほしいと合図があった。ペンを強く握り、「大丈夫。少し寂しい。」と書いて私に見せてきた。それを見て私はハッとした。A氏が1日のうちのほとんどの時間を1人で過ごし、寂しさを感じていたことを初めて知ったからだ。その日から私は受け持ちではない時も、時間を見つけてA氏のもとへ行った。その後、他病棟へ転棟してしまったが、最後に会った日に「一生恩にきります。あなたのこと忘れない。」と書いて見せてくれたA氏の顔を私は忘れられない。
業務に追われる日々、患者さんとの限られた時間をどのように使うかは今後も課題であるが、患者さんの思いに気づける看護師でありたいと思う。
